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ファイル1 第7話:三峯の御札と迫る危機 ――暴走する“菊千代”を止めろ

last update Last Updated: 2025-12-20 20:00:10

 俺達は山道を車で登っていた。

「……黒川総業の人達、やっぱり現場を確認に、行くんですよね?」

「ああ、間違いないだろう。昨晩から突然音信不通になったんだから、警察でも来たんじゃないかと、心配になったんだと思う」

「先生は、一体どうするつもりですか?」

「……俺は、まず菊千代に、これ以上人殺しをさせたくない。これが最優先だ。次に黒川総業の連中を懲らしめたい。まあ、それは宇佐美に頼んだ方が、うまくやってくれそうだから、あいつに頼む」

「分かりました。私も菊千代を救いたいです」

「よし、菊千代を救うぞ」

「はい」

「ところで先生、どうやって菊千代を救うんですか?」

「……」

「先生?」

「……すまない、説得以外の方法を考えてない。ここまでシリアスな展開は想定外だった」

「全く、そうなんじゃないかと思っていました」

 そういうと、薫は自分のリュックから御札を取り出した。

「この御札は三峯神社のものです」

「三峯? あそこは狼をまつってたよな。……なるほど。菊千代が犬だからか」

「それもありますが、今回の現場は『山』で、原因は太陽光パネルの『穢れ』ですよね。これは三峯神社の御眷属ごけんぞく、つまり狼が山を荒らす厄災を払うシチュエーションです。だから、ただの気休めじゃなくて……菊千代に『私達は山を清めに来た側だ』って示すための、“しるし”になるかもしれないと思って……。今朝、ホテルを出る前に、持ってきた御札の中から選んでたんです」

 犬の祖先は狼なので、無関係な御札より有効かもしれない。

「ありがとう、薫。その御札、使わせてもらうよ」

 中腹に到着すると、例の黒塗りのベンツが止まっているのが見えた。強面スーツのオッサンが見張りに立っている。

 俺は車を止めて降りると、急に寒気が襲ってきた。俺はイヤホンを外し耳を澄ませた。

 俺が常日頃イヤホンをしているのは、霊の声を聞こえにくくするためだ。俺自身の暗示の問題なのかも知れないが、外すことによって、感度が上がり、遠くの、あるいは小さな霊の声が聞こえる。

『……憎い……憎い……憎い……昨日の奴……同じ匂い……』

 そして、昨日と同じように、人間以外の物音が消えていく。俺には怨霊となった菊千代が、音を吸い込んでいるのかのように思えた。

「何だ、お前ら!」

 黒塗りベンツの見張りをしていたヤクザが俺達を見て、ドスの利いた声で威嚇してきた。

「痛い目に会いたくなかったら、とっとと帰れ!」

 指をぽきぽきと鳴らしながら、俺の方に近寄ってきた。

「お前達を助けにきたんだよ、不本意ながらな!」

「はっ? 何いってやがる、オメーはバカか?」

「残念ながら、バカではないし、昨日の惨劇を繰り返したくなけりゃ、お前たちこそとっとと帰るんだな」

「てめー、何を知ってる!?」

 そう叫ぶと、俺に掴みかかってきた。

「こんなことしてる場合か! この気配がお前には分からないのか!」

「はっ、何が気配だ!!」

 まずいな、くそっ! こんな奴と鬼ごっこしている場合じゃないぞ。――その時だった。

『アオォォーン……』

 菊千代か! その声に一瞬気を取られると、ヤクザに捕まってしまった。

「へへへっ! さあ、知ってることを話してもらおうか」

「うわっ! 何だこいつは!!」

 離れた場所、おそらくコイツラの親分がいる辺りなんだろう、で騒ぎが起きた。菊千代が動き出したか。

「ほら見ろ、騒ぎが起きたぞ、親分を守りに行かなくていいのか?」

 拳銃を撃つ音も聞こえはじめた。「うわっ!」「チャカが効かねぇ」

「ちっ! そこに大人しくしてろ」

 男はそういうと、懐から拳銃を取り出して、走っていった。

「先生、大丈夫ですか?」

「ああ、それよりアレが菊千代だ」

「アレが……、そうなんですね」

 とはいえ、手下があんなに銃を撃ってる状況じゃあ近寄ることも出来ねえな。しかし、少しずつ手下も倒されていき、さっきのあの男と親分だけになっていた。

『グルルル…』

 唸り声をあげて、菊千代は親分に飛びかかった。

「よすんだ! 菊千代!!」

 俺達は、菊千代に向かって走り出していた。

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